エピゴーネン

勉強が嫌になって外へ飛び出して、することもないのでとりあえずただ歩いて、行くところもないのでただまっすぐ歩いて歩いて、いくつか公園や商店街や銀座通りなるものを抜けて、東武東上線沿いを歩いていて、板橋区に入って、やけに長いアーケードを歩いてたらサーティーワンカップを抱えて歩いてくる女性とすれ違いこんな冷える日によく食べるねえと思いつつも一人ぼっちでちょっとした楽しみを楽しめることってこの状況下ではとても大切なことだよねって納得して引き返して足が疲れたので東武東上線に乗って、素直にお家に帰るのも味気ないなと思って逆方向に乗って、東武東上線なんて多分ほとんど初めて乗って、目が乾いてきて目薬を刺したくなって帰りたくなって、でも電車は逆方向だから一向に家には辿りつかないと気づいて、もうすべてが面倒くさくなる、馬鹿らしくなる、そんな気持ちで飛び出してきたのだけど、歩いている時もずっとこんなことを考えていたのだけど、どこの公園も子どもが遊んでいてちっちゃい子には親も付き添っていておばあちゃんもいて一緒に遊んでいて、シーソーの片方を乗らずに押し続けてあげてて、代わりましょうかと声をかけるか迷ってかけずにじっと見ていて、公園の裏側にいた女の子なら簡単に拐えそうだと思ったりしてそれを懺悔したくて、けど未来において浮かばれないままの人生だったらロリコンになら転身しそうな気もするし、普通に捕まってる気もする、俺様が歩いてる前をずっと一組のカップルが歩いていてこんな寂れた場所仲良く歩くなよと思うがそれができるのが仲良い何よりの証拠、とでも言いたげなふたりの背中を見て一層苛立つ、寂れたといっても今日の曇天がそう見せかけているだけな気もしてメンタルと空模様の相関係数ほぼ1な自分、透明な自分、透明な自分って表現を広めたのはサカキバラなのかと思ったりする、僕の生まれた翌年に犯行したサカキバラ、バモイトオキ神、ダメ、ゼッタイ、でもなんで、でもダメ、ゼッタイ、てか彼女ほしいな、一緒に歩いてくれる彼女がほしいな、並んで歩く手を繋いで歩く、いいないいな、人間っていいな、おいしいおやつにぽかぽかおふろ、あったかいふとんでねむるんだろな、僕は帰れない、なぜなら逆方向の電車に乗っているから、いいないいな、あの人はいいな、あの人々はいいな、志木駅に着いてしまう、慶應の高校の一味があるところ、埼玉県新座市、混んでる電車は乗りたくないウイルス怖い、のうのうとしてられない、田舎に住みたいと思う、田舎に帰りたいと思う、自分には田舎はない、ここで咳を撒き散らかせばみんな降りるかと思う、大学を辞めたいと思う、これ以上大学にいても仕方ない芽が出ない、院進したって仕方ない、スイングしなけりゃ意味がない、意味がなければスイングはない村上春樹、学生結婚羨ましい、人生を諦めた頃に僕は結婚すると思う希望とかじゃなくかといって絶望でもない、それらの概念がなくなる時すなわち田舎に帰りたい、人間いたるところ青山あり、僕にとって田舎は帰るところではない行くところ、卒業して定職につかずブラブラしたい、そうは両親が許さない、ヘイトスピーチ許さない、就活サイトで本社が少なそうな都道府県を選りすぐって見ていく、すべてを諦めてみたい、僕は諦めることすら諦めたのかもしれない、ニヒリズム未満のメランコリー、どこにも行けないからどこにも行きたくない、帰ったら存在と時間を読み進めなければいけない何の義務もないのに、義務の何らもないのに存在と時間の続きを読まなければならないしんどい、卒論の相談文をTAに送らないといけないこれは義務だから仕方がないがしんどい、早く卒業して地方都市でひっそり本を読み文を書き座禅を組んでいたい、ザゼンボーイズビーチボーイズ、娘ができたら溺愛しちゃうな絶対可愛いし、可愛い娘がほしいから可愛い人と結婚したい、上福岡駅、巨人のピッチャーだった條辺がやってるうどん屋がある上福岡、長嶋茂雄が揮毫した暖簾を提げるうどん屋その名も條辺一度は行きたい、京橋はええとこだっせグランシャトーがおまっせ、決定的に何かが間違っているってフレーズがよく浮かぶのだがこれはいかにも最果タヒっぽい、僕はイカ東、針間貴己はいまどうしてる、佐村河内守はいまどうしてる、僕に娘ができたらお小遣いをあげたいって言ってくれる女の先輩がいる、その人と付き合ってみたい、みたいな、まもなく川越市、まもなくカワゴエシって電子案内に表示されてビビった、ソクラテスに会いたい、僕の貴重な友達、僕の小学時代の友達が家に連れてきた友達、2浪して関関同立、LINEの登録名がソクラテス、僕の部屋を褒めてくれたソクラテス、チェスターコートとDQNパンツって組み合わせが粋だと思う気持ちいい、千葉雅也、早くこいこいお正月には僕にはない田舎に帰る、帰ったら存在と時間を読まなければならないのが苦痛なので僕は田舎に帰りたい、家族に乾杯したい、君の瞳に完敗ア、もう目薬は要らなくなっていた、涙で潤っていたから。