2018年に読んだ本10選

 こんばんは、ゆうひんと申します。以後お見知りおきください。明日から冬眠に入るので、少し早いですが「今年読んだ本10選」を紹介したいと思います。10選といってもベスト・セレクションではなく、読んだ時期、ジャンル、知名度、紹介しやすさなどのバランスを考慮して選びました。誰も僕が読んだ本なんかに興味ないかもしれませんが、こういう名も分からぬ一般人が紹介しているものの中から、一生ものが見つかることだってあると思いますよ。

 それではどうぞ!

 

1.(評論)希望難民ご一行様 ─ピースボートと「承認の共同体」幻想─ / 古市憲寿

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 こういう怪しげなポスター、町を歩いたことがある人ならば(つまり全員)見たことあるのではないだろうか? マジでどこに行っても貼っている、クソ田舎であっても。ピースボート(あの辻元清美氏が創設の中心人物)という団体主催のこの世界一周クルーズ自体はちゃんと行われていて、最低価格だと本当に99万+αで行くことができる。しかも、このポスターを街中に貼りまくることで参加費が減額されるボランティア・スタッフという制度があって、街中やたらめったら貼られているのはこういうカラクリなわけだ。全額免除になることを「全クリ」というんだとか。

 前置きが長くなったが、本の紹介へ移るとしよう。この本は数年前にメディアでよく見かけた若手の社会学者・古市憲寿が、フィールドワークとして実際にピースボートに乗船した経験を元に「若者」を考察したもの。ルポルタージュとしても読める。

 社会学的な考察は目新しいものではなかったが、若者の旅の歴史やピースボートの内実などが詳細に書かれており、面白かった。自分が「承認の共同体」を求めているに過ぎないことに気付かされ、猛烈に反省した。「9条ダンス」というワードが気になった人は是非。

 

 

2.(小説)ミュージック・ブレス・ユー!! / 津村記久子

 津村記久子は『ポトスライムの舟』で2009年の芥川賞を受賞した、僕の好きな作家の一人。ちなみに『ポトスライムの舟』は冴えない契約社員が「世界一周クルーズ」乗船を夢見て貯金していく様を描いている。

 さて本作だが、主人公は高校三年生のオケタニアザミ。勉強はできず将来の進路も未定、親友のチユキらとグダグダな日常を送っている。そんなアザミにとって何よりも大切なのは音楽。バンドをやったり、聴いたアルバムのデータを逐一Excelファイルに記録したり、海外で暮らす音楽好きのアミーと文通をしたり。

 グダグダでも後から振り返れば愛おしい青春の日々、というのが僕は大好きである。さらにこの小説の主人公は、音楽が大好き。バカでかいヘッドホンをして、誰とも挨拶をせず、気怠げに始業間際の教室に入っていた僕の高校時代を思い出して、痛々しくも懐かしくなった。ラストの二行が本当に秀逸で、感情がこみあげてくる。

 

3.(エッセイ)にょっ記 / 穂村弘

 現代短歌の第一人者として知られる穂村弘のエッセイ。といっても普通のエッセイの体裁とはやや異なり、パスタのニョッキをもじったタイトルからも分かる通り、日記形式で書かれている。4月1日から3月31日までoftenぐらいの頻度で、短いものだと2,3行のものまで。

 現実と空想の境界が絶妙で、日常に天使を探したくなる。穂村氏の女性人気も納得。寝る前にちまちま読むのがいいです。きっと穏やかな、いい眠りにつけるはず。僕もこんな日記を書いて小学校の担任を驚かせたりしてみたかった。

 

4.(小説)送り火 / 高橋弘希 

 こちらは今年上半期の芥川賞受賞作。今回紹介する中では、唯一今年刊行された本。

 舞台は青森の山間部、主人公は東京から越してきた中学三年生の歩。これまで何度か転校を経験してきた歩は周囲を観察し分析するのが得意で、今回もうまくクラスに溶け込めたつもりで過ごしていた。そう、あの夏、川へ火を流す日までは──。

 歩、リーダー格の晃、いじめられっ子の稔の3人が物語の中心。この構図や経過は既視感があり、ラストも急展開だと思ったが、一貫してじんわりとした緊張感が張り付いた文体は美しく、よもや軽くホラーだった。田舎、そして思春期特有のやり場のない息苦しさが伝わってくる。それぞれの少年に潜む残酷性に向き合わされる一冊だった。

 

5.(評論)哲学入門 / 戸田山和久

 戸田山和久は大学生必携『論文の教室』の著者として知られている。東大の哲学科出身で、専門は科学哲学。「哲学概論」という授業の参考文献リストの一番上にいたので、手に取ってみた。

 哲学「入門」と謳っているが、いわゆる哲学の入門書とは異なる。哲学史の概説ではないということだ。つまりデカルトもカントもニーチェも登場しない。この本は、意味、機能、情報、表象、目的、自由、道徳という「ありそでなさそでやっぱりあるもの」を探求する。これらの概念が唯物論的世界観(世界は全て原子から成り立っており、科学で説明可能である)の中にいかにして描かれるのか、そのパフォーマンスを見せてくれる。哲学するとはどういうことかを教えてくれるという意味での入門書である。

 新書で450ページほどあるので分厚さに気圧されるが、内容は非常に明快、ロジカルで知的好奇心を刺激し続けてくれるため、僕でも読破できた。特に哲学を学んでいるというわけではないが、人生の意味だとか哲学っぽいことをあれこれ考えるのが好きな人には格好の本。

 

6.(ノンフィクション)スローカーブを、もう一球 / 山際淳司

 スポーツ・ノンフィクション不朽の名作にして、金字塔的作品。出来事自体が名高い『江夏の21球』をはじめ、野球を題材にしたものが4編、その他スポーツが4編。それぞれの主人公となる実在の人物は、江夏を除いてWikipediaに記事があるかないかぐらいの認知度で、(その実績とは裏腹に)決して華々しい選手生活を送ったわけではない。日本スカッシュ界の英雄や、突如ボートでオリンピック出場を目指し始めてしまう、東海大学に通う普通の学生。彼らだからこその物語が収められている。

 丹念な取材に基づいた緻密な描写はさること、ここぞの場面で登場する人生の核心を突くようなフレーズが緩急をつけ、詩的な表現も実に巧妙である。スポーツ・ノンフィクションとはこうも色鮮やかに書けるものかと、本当に感服した。特にお気に入りの一節を引きたい。

使い古しの、すっかり薄く丸くなってしまった石鹸を見て、ちょっと待ってくれという気分になってみたりすることが、多分、だれにでもあるはずだ。日々、こすられ削られていくうちに、新しくフレッシュであった時の姿はみるみる失われていく。まるで──と、そこで思ってもいい。これじゃまるで自分のようではないか、と。(「たった一人のオリンピック」より)

 

7.(評論・エッセイ・詩歌)書を捨てよ、町へ出よう / 寺山修司

 今年は寺山が亡くなって35年になる。特別展や上映イベントが開催され、にわかに盛り上がりを見せた年だった。寺山がどういう人物か、一言で言い表すのは難しい。職業・寺山修司を自称し、歌人シナリオライター、劇作家、映画監督、評論家、作詞家など、60年代を中心に八面六臂の活躍を見せた、伝説的なマルチクリエイターである。

 この本はどう説明したらいいのか、本当にわからない。裏表紙には「本を読み疲れた貴方を楽しい空想の世界に導いてくれるバツグンに面白い本でない本!」とある。野球や競馬、賭博、歌謡曲、男女、サラリーマン、不良、家出、自殺など様々なテーマが書かれ、全国の少年少女から募った詩も多数掲載。僕が寺山のファンになった本で、寺山のエッセンスが詰まっていると思う。こんなにも無秩序な本は初めてだった。

 

8.(小説)次の町まで、きみはどんな歌をうたうの? / 柴崎友香

 町へ出たらば、歌をうたおう。僕がタイトルに一目惚れした本書は、表題作と『エブリバディ・ラブズ・サンシャイン』の二編から成っている。

 『次の町まで、きみはどんな歌をうたうの?』は、友人カップルがディズニーランドへ向かう車に、男二人が理由をこじつけて同乗するという青春物語。主人公はカップルのどちらかではなく、友人の一人・望の視点で語られる。実は、彼はカップルの女の子に想いを寄せているのだが──。

 あらすじからエンタメ色が濃いものと想像していたが、良くも悪くも思い違いだった。設定がすごく魅力的に思えた分、ボリューム不足に感じたが、始めはイラついた望の人間性に段々惹かれていった。傍若無人な振る舞いを見せる彼は、芸術的才能に恵まれた繊細な心の持ち主。このようなキャラクターが一人称視点で描く小説は目新しかった。

 『エブリバディ・ラブズ・サンシャイン』は、失恋を機に睡眠病に陥り、半年間学校を休んでいる大学生の女の子が主人公。年が明け、彼女が学校に再び通い始めようとする様子を描いている。

 僕自身、2年の秋学期はおそらく孤独感が原因で、大学に行かない日々を過ごしていた。そんな事情もあり、面白くないはずがなかった。展開されるのは切ない恋模様。随所に登場する「戦うこと。眠らないこと。」というフレーズが脳裏に焼き付いた。眠らないことが戦いとは、文脈が無ければ絶対に理解することはできない。

 

9.(エッセイ)そら頭はでかいです、世界がすこんと入ります / 川上未映子

 『乳と卵』『ヘヴン』などで有名な川上未映子の第一エッセイ集。まだ文壇デビューを果たす前、歌手時代にしたためていたブログ「純粋悲性批判」を纏めたもの。なんと136本ものエッセイが収録されている。

 彼女の持ち味はなんといってもその独特な文体。『乳と卵』では樋口一葉を彷彿とさせる文体で注目を集めたが、本作でもまさに怒涛という言葉が相応しい勢いで、文を区切らず延々と濃い関西弁を連ねていく。読めばひとたび、未映子色に染まること間違いなし。とりわけ『性の感受地帯、破竹のあはん』は全男児必見である、と個人的に思う。

 

10.(小説)赤頭巾ちゃん気をつけて / 庄司薫

 最後を飾るのは、60年代末という時代を反映した一作。作者と同名の主人公、日比谷高校三年生の庄司薫は、学生運動の煽りを受け、志望していた東大の入試が中止になるという悲劇に見舞われる。そんな彼の踏んだり蹴ったりなある一日を詳細に描く。

 薫くんは、動揺する社会のあらゆる人々、体制、風潮への底知れぬ反発心を抱えるも、自分の胸の内から完全に湧き上がるものがないことも自覚し、悶々と人当たりのいい外面を装っている。平成最後の年を生きる自分も、まさに同じ青年であった。

 また、物語そのものを別にしても、知性についての考察やインテリの三分類、国内随一の進学校だった日比谷高校の実情、女の子をものにできない男の子の心理など、作中で多くの分量が割かれた項目は、どれも深い洞察、感受に基づいた秀逸なものだった。特に大学生に薦めたい。

 

 以上です。解説が多くなってしまいました。皆さんも何かオススメがあればコメントください。ありがとうございました。